金の斧 銀の斧
とてもまじめなきこりがいました。
つかれても弱音をはきません。
もくもくと木をきりたおします。
きこりはその日も愛用する鉄の斧で木をきっていました。
と、そのときです。
ボキッ!
固い幹にはねかえり、斧の柄がおれてしまいました。
刃先はちかくの泉のほうへ飛んでいってしまいました。
ボチャンと音が聞こえたので、泉に落ちたのでしょう。
泉までかけよると、めったに弱音をはかないきこりが、泣きそうになって座りこみました。
ボロではありましたが、斧がなくては仕事になりません。
そのときです。
ブクブクと水面にあわがふきだしました。
あわは一気にいきおいをつよめ、とつぜんなにかがとびだしたのです。
それはびしょびしょに濡れた美しい女と、いかつい中年男でした。
呆気にとられるきこりに、いきなり女はこう問いかけました。
「あなたが落とした斧は、この金の斧ですか? それとも銀の斧ですか?」
いかつい中年男が、隆々ともりあがる右腕に、神々しくかがやく金の斧を、左腕にまばゆい光をはなつ銀の斧をにぎりしめていました。
きこりは首をよこにふりました。
「どちらでもありません。落としたのは鉄の斧です」
きこりのこたえを聞いたいかつい中年男はうなずきました。
美しい女はほほえみます。
「正直なきこりさんですね。正直は一生の宝。この2つの斧をさしあげますわ」
きこりは戸惑いました。
「ありがたい話ですが、いりません。もらういわれがありません」
きこりがこたえるなり、いかつい中年男が力強くうなずきます。
「そうですか。ではどうでしょう。鋼の斧をさしあげます。鉄の斧より丈夫ですわよ」
斧がなければ仕事ができません。
落とした鉄の斧を見つけたらゆずってほしいと言う女のねがいに、きこりはうなずきました。
そうして、きこりは美しい女から鋼の斧をもらいました。
きこりは鋼の斧でいっしょうけんめい木をきり、あたりでは名のあるきこりとなりました。
一部始終を見てたべつのきこりが、金の斧と銀の斧を手にいれるべくたくらみました。
家にもどって、いちばんボロの鉄の斧をもってきて泉に落としたのです。
ポチャン!
すると、あわがぶくぶくふきだしました。
あわはみるみるいきおいをまして、水面から美しい女といかつい中年男がとびだしました。
「あなたが落としたのは、金の斧ですか? それとも銀の斧ですか?」
男はすぐさまこたえます。
「どちらでもありません! 落としたのは鉄の斧です!」
美しい女はほほえみます。
「正直なきこりさんですね。正直は一生の宝。この2つの斧をさしあげますわ」
きこりは喜々としました。
金の斧と銀の斧、両方を手にいれることができたのです。
きこりはいそいで村へもどり、斧2つを質屋にいれて大金を手にいれました。
きこりは親といっしょにボロ屋からりっぱな家にうつり住み、裕福な生活をおくりました。
一部始終を見てたべつのきこりが、なにか不自然があると勘ぐりました。
「なぜタダでくれる? 裏があるな」
きこりは草むらから美しい女といかつい中年男をぬすみ見しました。
泉にもぐってはやすみ、もぐってはやすみをくりかえします。
どうやら沈んだ鉄の斧をさぐっているようでした。
泉には「斧の墓場」という愛称がありました。
こわれた古い斧をすてるきこりが少なくなかったのです。
美しい女といかつい中年男の話によると、この村でとれる鉄には、貴重な金属がまざっているようでした。
そういう村をさがしあてて、すてられた鉄の斧をあつめて、貴重な金属をほしがる隣国でお金にかえているというのです。
泉にもぐってまで探しまわっているのですから、うそではないだろうとっきこりは確信しました。
きこりはいそいで村へもどり、家財の大半を質屋にあずけてお金を工面しました。
そのお金で鋼の斧を買い占めると、こんどは村じゅうのきこりの家にでむきました。
ボロの古い鉄の斧を、無料をうたって新品の鋼の斧と交換してまわったのです。
きこりの名まえは、その日のうちに村じゅうにしれわたりました。
わざわざでむかなくても村人たちから斧の交換にやってきたのです。
きこりは隣国で村じゅうの鉄の斧を売り、巨万の富を手にいれました。
お金を借りにくる村人と会って話し、熱意があればだれにでも貸しました。
村人たちから必要とされ、ありがとうと感謝される。
だれかを手助けできるがうれしくて、きこりの毎日はあっというまにすぎました。
そんなきこりへのお礼にと、借りたお金より多くかえす村人がすくなからずいたので、きこりのお金はふえるいっぽうであったそうです。