鬼退治する金太郎の物語です。
条件設定は、桃太郎の代わりに金太郎が主人公になる、です。
サクッとお読みいただけますよ。
鬼ヶ島の金太郎
おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯にでかけるのが日課です。
いつものようにおばあさんが洗濯していると、大きな金の玉がぷかぷかとながれてきました。
卵とかんちがいしたおばあさんは、うれしそうにもちかえりました。
おじいさんとはなしあって卵かけごはんにしようときめましたが、わってみると、なかに大きな男の子がはいっているではありませんか。
きもをぬかしたおじいさんとおばあさんでしたが、子宝にめぐまれなかったから、きっと神さまがさずけてくださったのだときめました。
おじいさんとおばあさんは男の子に「金太郎」と名づけたのでした。
ものごころがつくころになると、金太郎は毎日のように川原にでて、イヌやサルやキジとあそびました。
かけっこしてはイヌよりはやく、木のぼりしてはサルよりうまく、ヘビをつかまえてはキジに負けしらず。
とはいえ、勝ってえらぶるわけでもなくて、おおきな体なのにちいさくまるまって、うれしそうににこにこほほえんでいるのです。
そのまなざしはあたたかくて、まるでお日さまにくるまれているようで、イヌもサルもキジも、金太郎といっしょにいるとえがたい幸せをかんじるのでした。
ある日のこと、嵐がやってきて橋が濁流にのまれると、金太郎はそのへんの木をなんぼんも押したおして、三日もかからずにじょうぶな橋をかけました。
またべつのある日、熊がえさをもとめて里にあらわれると、しこをふんですもうをとって、クマをかるがるとひっくり返して勝ちました。
金太郎はだれにでもやさしく、だれよりも強くなっていたのでした。
ちょうどそのころ、鬼ヶ島のうわさが村にもつたわってきました。
鬼がおおがかりな戦支度をはじめているというのです。
各地の村では、その村いちばんのツワモノが鬼退治にでかけはじめていました。
金太郎の村からもツワモノのをえらんで討伐にでるようにと、殿様からお達しがありました。
金太郎はまよわず名のりをあげました。
おじいさんとおばあさんは家にあるものぜんぶと食べものをうりはらって、りっぱな陣羽織と袴と、鬼切安綱にあやかった鬼きりの太刀をくめんしようとしたのです。
すると、めったにしゃべらない金太郎が、きびだんごを三つくれ、それでじゅうぶんだと、おじいさんとおばあさんにおねがいしたのです。
きびだんごを三つ。
イヌとサルとキジへの餞別がわりでしたが、彼らはわかれをよしとしませんでした。
かくして金太郎とイヌとサルとキジは鬼ヶ島へむかったのでした。
はじめ、鬼たちは疑念にかられました。
陣羽織をまとっておらず、太刀もたずさえていません。
金太郎は赤いはらかけ一丁。
まるごしです。
しかも家来にいたってはやせこけたイヌとみすぼらしいサル、ひんそうなキジなのです。
たたかいにきたのでなければかれれと鬼はあいてにしませんが、金太郎はひきません。
「いざ、勝負を」
「正気か小僧、わしらはおぬしらのいう【鬼】だぞ」
「いざ、すもうで勝負を」
「こざかしい」
金太郎がしこをふむと、鬼たちは笑いました。
ある鬼ははらをかかえこんで笑いました。
「おもしろい小僧だ、すこしだけあそんでやる」
鬼までしこをふみだすから、サルがあわてて持参した軍配をかかげてとびだすと、いよいよもって鬼たちは笑いました。
しかし勝負はいっしゅん。
金太郎がつっぱると、鬼はたまらずつんのめる。
四つにくむなり金太郎は右のかいなで豪快に上手投げをくりだしたのです。
どすんと鬼はところがって、あわをふきました。
あまりにいっしゅんの出来事で、呆気にとられてあたりはしんと静まりました。
金太郎がなげとばした鬼は、いちばんつよいかしらだったのです。
うれしそうな金太郎の顔つきに、鬼たちは戸惑いぎみでした。
金太郎たちよりまえにきた者たちは、鎧をまとって太刀をもち、殺気だってきりかかってきたからです。
「おまえら、なにしにきた?」
「ただ、すもうしにきたのか?」
金太郎はくびをよこにふります。
「おれたちの首をきりおとすのか?」
金太郎はまたくびをよこにふります。
「ではなんだ。なにが目的だ」
たまらず雉がくちをはさみます。
「村をおそわないでほしいとおねがいにきたのです」
そのとき、あわをふいていた鬼の意識がようやくもどりました。
「おまえらはかんちがいしている。おれらはおそっていないし、おそうつもりもない。おれらはこの島の生活にまんぞくしている。おまえらみたいにサムライがおそってくるからたたかわなくちゃならないんだ。おまえらサムライどおしのたたかいに、おれらをまきこむな。かってにやりあえ。めいわくだ」
イヌとサルとキジは顔を見あわせました。
あいかわらず金太郎はにこにこしていましたが、なにかを思いついたのかあたまをぽりぴりかきだすと、すもうをとった鬼にあゆみよって手をさしだしたのです。
そうしてひっぱりおこすなり、ぎゅっと鬼をだきしめました。
「お、おい、おれはそっちの趣味はないんだ」
鬼はおどろきましたが金太郎のちからが強すぎて逃れられません。
鬼がじたばたすると、金太郎はうでをゆるめてうなずきました。
そうして鬼に背をむけてあるきはじめたのです。
あいつらいったいなんなんだ──
呆気にとられる鬼たちからは、金太郎への敵意はきれいになくなっていました。
鬼ヶ島から海をわたると、船着場には品のよいサムライ大将がいました。
金太郎に勝るとも劣らない、りっぱな体つきです。
「おぬしら鬼を討伐したのか?」
金太郎がほほえむからキジがこたえます。
「すもうで鬼を負かしてきました。サムライの戦にまきこまれているだけで、鬼は大好きな島からでたくないそうです。サムライに迷惑しているそうです」
サムライ大将はうなずきました。
その瞳のおくには、ふかい知性が感じられます。
「鬼をすもうで負かすとはおもしろい。あっぱれだ。鬼らの件は、わしが上様に討伐せぬよう願い出よう。ところでおぬしら、わしのところにきてみぬか。かんがえておくがよい。のちのちおぬしらにむかえをだそう」
イヌとサルとキジは、村のあちこちで金太郎の勇ましさをはなしました。
上手投げでかるがると鬼をころがしたことを。
その強さは評判になって、遠くからすもう勝負にやってくるツワモノがあとをたちませんでしたが、金太郎はまったくの負けしらずでした。
やがてむかえがくると、金太郎はおじいさんとおばあさん、イヌとサルとキジといっしょに都にすむサムライ大将のもとにうつりすみました。
サムライ大将は源頼光という名のある武将でした。
金太郎は頼光のもとで学問にはげみ、イヌとサルとキジが先立つと、その菩提をとむらいました。
剣術をきらう金太郎はすもうの体技のみで悪党をこらしめ、頼光の四天王の一人「坂田金時」と名のってながく大活躍したということです。
金太郎 ~基本世界情報
名前 金太郎→のちに坂田金時
出身 足柄山
職業 家事手伝い(まきわり)
→のちに京で武将(源頼光の四天王の一人)
特技 すもう(怪力)
性格 優しく温厚
武器 素手(木材伐採用にまさかり所持)
防具 赤色のはらかけ
道具 なし
仲間 クマ、サル、タヌキ、イノシシ、
森のどうぶつたち
あらすじ
足柄山で誕生。幼少時から超怪力。森で巨木を倒して川に橋をかけたり巨大熊をすもうで投げ飛ばしたり。学問と剣術を学んで京にのぼる。源頼光に見出されて武将となり悪党を懲らしめる。
桃太郎 ~基本世界情報
名前 桃太郎
出身 岡山(諸説あり)
職業 無職→のちに長者(鬼から財宝強奪)
特技 号令(家来に突撃命令)
性格 独善的
武器 太刀
防具 はちまき、陣羽織
道具 きびだんご
家来 イヌ、サル、キジ
あらすじ
老婆が川で拾った巨大桃から桃太郎誕生。成長してある日とつぜん鬼退治を宣言。家来をひきつれて鬼ヶ島へ渡り鬼討伐。金品を持ち帰る